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高松高等裁判所 昭和31年(ネ)321号 判決

控訴人 西山覚次

被控訴人 株式会社高知県建設会館

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は第一審第二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は

被控訴代理人において

(一)  本件各土地の地上権が順次譲渡されて来た経緯は控訴人主張の通りであつて、本件各土地には戦災前まで非堅固建物が建設せられており、当初の地上権設定契約による地上権の約定期間満了当時における地上権者は原判決添付目録記載の(一)従前の土地に付訴外田内佐吉、同上(二)の土地に付訴外中屋貞吉(尤も登記簿上は中屋幸七なるも同人は昭和一六年死亡し家督相続に因り中屋貞吉が地上権者となる)、同上(三)の土地に付訴外福留鶴吉であつて、当時の土地所有者は勿論控訴人である。

前示(二)(三)の土地の地上権登記に、控訴人主張の如く譲渡禁止の特約の登記があることは認めるも、その登記は登記法第一一一条等の規定の趣旨から考えて無効のものであるから地上権の譲渡性を失わしめる効力はない。

(二)  本件(一)(二)(三)の各土地は何れも罹災都市借地借家臨時処理法(以下単に処理法と称する)の適用を受ける土地である。

控訴人から地上権消滅及び土地返還の請求のあつたことは認めるもその効力を争う。

又本件(一)(三)の土地については処理法の施行に伴い同法第一一条によりその地上権の存続期間は昭和三一年九月一五日まで延長せられたことは従来主張した通りである。

而して右各土地に建設せられていた控訴人主張の建物が戦災で焼失した後も依然宅地であつたが、昭和二三年頃特別都市計画法による換地予定地の指定があつたところ、被控訴人は右各土地の地上権を譲受けた後同二八年九月頃その換地予定地に建物建築に着工し同二九年四月竣工した。それまでの間にはその換地予定地には建物は存在しなかつたものであるが、被控訴人が新に建築所有するに至つた建物は本建築で借地法に所謂非堅固建物である。

そこで右各土地の地上権設定契約は借地法第六条により当然に更新せられ、従前の契約と同一条件でその存続期間は昭和三一年九月一五日から更に二十年間延長せられたものである。と補陳し、

控訴代理人において

(一)  前示目録記載の従前の土地(二)(三)の各土地の地上権の終期は被控訴人主張の通りであり、本件(一)(二)(三)の各土地の地上権設定契約に基き建設せられた家屋は何れも非堅固建物(木造二階建店舗兼住宅)で、昭和二〇年七月四日戦災により焼失するまで存在していた。

(二)  本件(一)(二)(三)の各土地はいずれも処理法の適用を受ける土地であり、当初の設定契約による本件地上権消滅当時の地上権者は被控訴人主張の通りである。

控訴人は前示(二)(三)の土地につき乙第一号証、第二号証の一、二により当時の地上権者に地上権消滅及び土地返還の通知をしたのであるが、乙第一号証による分は昭和二〇年一一月二二日家督相続に因り地上権を取得していた訴外中屋靖弘に対してしたものである。

(三)  本件(一)(三)の各土地につき被控訴人が昭和二九年四月その主張の如き建物を建設したことは認める。と訂正陳述し、

たほか原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する。

立証として被控訴代理人は甲第一、二号証の各一、二、三、第三号証乃至第七号証を提出し、原審証人山崎金次、同福留忠雄の各証言を援用し、乙号各証の成立を認めると述べ、控訴代理人は乙第一号証第二号証の一、二、第三、四、五号証を提出し、甲第一号証の一、二、三第三号証乃至第七号証の各成立を認め第二号証の一、二、三は何れも不知と答えた。

理由

原判決添付目録記載の従前の土地(一)(二)(三)は何れも従前より控訴人の所有であること、控訴人は右各土地に付非堅固建物所有の目的で地上権設定契約をした。即ち(一)の土地については明治三七年一月一日訴外田内佐吉に対し地上権存続期間を四十六ケ年(終期は昭和二五年十二月末日となる)と定め、(二)の土地については明治四四年一二月二〇日訴外岩崎亀太郎(成立に争のない甲第四号証によれば岩崎免太郎の誤りと認められる。以下同様とする)に対し前示期間を三十ケ年(終期は昭和一六年一二月一九日となる)と定め、(三)の土地については明治三三月一月中に訴外福留鶴吉(成立に争のない甲第五号証によれば福留亀太郎の誤りと認められる。以下同様とする)に対し前示期間を五十ケ年(終期は昭和二四年一二月三日となる)と定めて夫々地上権設定契約をしたこと、而して右(一)の土地の地上権は前示訴外田内佐吉から訴外山崎金次に、(二)の土地の地上権は前示岩崎亀太郎から順次訴外中屋幸一(前示甲第四号証により中屋幸七の誤りと認める)、訴外中屋靖弘を経て訴外渡部幸一に、(三)の土地の地上権は前示福留鶴吉から訴外福留忠雄に、夫々譲渡せられた上昭和二八年七月二九日被控訴人は右各土地の地上権を夫々当時の地上権者である右訴外人から譲受けたこと、及び右各土地につき夫々前示目録記載(1) (2) (3) の通り特別都市計画法に基く高知市特別都市計画事業復興土地区劃整理により各換地予定地が指定せられたことは何れも当事者間に争がない。

してみると特段の事情のない限り右各土地につき夫々前示地上権存続期間の終期を以て地上権は消滅すべきところ、被控訴人は右各土地につき夫々当時の地上権者が該土地の使用を継続していたに拘らず、土地所有者たる控訴人において遅滞なく異議を述べなかつたものであるから夫々借地法第六条に則り前契約と同一の条件で更に地上権を設定したものと看做された結果、その地上権の存続期間は(一)の土地につき昭和七一年一二月末日まで、(二)の土地につき同四六年一二月一九日まで、(三)の土地につき同七四年二月三日まで存続するに至つたものである。

被控訴人は仮りに右(一)(三)の土地につき被控訴人の主張が認められないとするも右土地は何れも罹災都市借地借家臨時処理法(以下単に処理法と称する)所定の罹災建物の敷地であるから、同法の施行(昭和二一年九月一五日)に伴い同法第一一条の規定によりその地上権の存続期間は夫々同三一年九月一五日まで延長せられたものである旨主張し、控訴人は右(二)の土地については地上権消滅後も当時の地上権者が使用を継続していたので、控訴人は当時の地上権者中屋靖弘に対して地上権消滅及び土地返還の通知(乙第一号証)をしたものであり、又右(一)及び(三)の土地については、使用継続の事実がないから、何れも地上権更新の効力は生じなかつたものである旨抗争するにつき検討する。

(イ)  先づ右(二)の従前の土地については戦災に至るまで従前より木造二階建店舗兼住宅(非堅固建物)が建設せられていたのであるが該地上権が右期間満了によつて消滅した昭和一六年一二月一九日以後も、当時の地上権者たる訴外中屋貞吉(登記簿上は中屋幸七)が右土地の使用を継続していたこと及び控訴人が訴外中屋靖弘に対して異議を述べたことは弁論の全趣旨によつて之を認めるに足る。然れ共成立に争のない乙第一号証によれば控訴人が異議を述べたのは前記期間満了時よりも七年余の後たる昭和二四年八月二日であることが認められ、右は特段の事情のない限り借地法第六条第一項所定の遅滞なく異議を述べたものとは認められないから、所定の異議の効力を生じたものとは認められない。

それ故に借地法第六条第一項第五条第一項により控訴人は右訴外人に対し右土地につき前契約と同一条件を以て期間を前記消滅時から更に二十年(終期は昭和三六年一二月一九日)とする地上権を設定したものと看做すべきである。

よつてこの点に関する被控訴人の主張は右認定の限度において理由あるも、これを超える部分は採用せず。

(ロ)  次に前示(一)及び(三)の土地が処理法所定の罹災建物の敷地であることは当事者間に争がなく、又右各土地の地上権が借地法第九条及び処理法第一一条等に所謂臨時設備其の他一時使用のために設定せられたことの明らかな借地権に該当しないことは冒頭説示に照して明らかにして、その存続期間の満了日が(一)の土地は昭和二五年一二月末日であり、(三)の土地は同二四年一二月三日であるから処理法施行(昭和二一年勅令第四一〇号による)の昭和二一年九月一五日当時その地上権の残存期間が何れも十年未満であることは明らかである。

そこで処理法と借地法との関係を考察するに、処理法は元来今次大戦による戦災都市の復興を促し戦災者の住宅難を緩和するため戦災地域内の借地借家関係を調整整理する措置を講ずる必要から臨時の措置として借地法等の特別法として成立したものである。即ち罹災又は疎開によつて建物を失い、かつ残存期間の短い借地権者は借地法等によつたのでは、借地権の保護に欠け、其の地位甚だ不安定なところより、(借地法第四条第六条第七条等参照)処理法を制定し之を以て一面借地権の存続を確保して借地権者の地位を安定せしめ、他面建物築造を促して建築復興に協力させんが為に、借地法の特例として処理法施行の際現存する借地権の期間延長を決定したものと解する。

而かもその借地権の存続期間等についても、臨時の措置として原則として十年とし借地法の特例を規定したのであつた。而して特定の事項につき特別法上の規定の存する場合には、其の事項については原則として特別法の規定が一般法の規定に優先適用されることは勿論である。

そこで本件の如き場合には、借地法第六条第四条等に対する例外特別規定たる処理法第一一条の適用により、既に処理法の施行に伴い、右地上権の残存期間は法律上当然に右施行の日から十年に至るまで延長されたものであつて、前記各土地の地上権の消滅時においては借地法第六条第五条第四条等による更新の余地は存しないものと解する。

よつて本件(一)(三)の各土地の地上権が借地法第六条により更新せられたとする被控訴人の主張は採用し難く結局前叙に照し右各土地の地上権に夫々昭和三一年九月一五日まで延長せられたものと認めるべきである。

控訴人は被控訴人が処理法所定の罹災者ではないから、右期間の延長を以て控訴人には対抗し得ない旨抗争するけれども、被控訴人は右各土地の地上権を夫々その前主から譲受けていることは前認定の通りであるところ、前記処理法の規定は前記の如き罹災又は疎開によつて建物を失つた借地権者のみに適用せられるものではなく、罹災建物等の敷地にある借地権について適用せられる趣旨であることは、同法第一〇条の規定等と対照するほかこれが立法趣旨に照して明らかであるから、かような借地権の譲渡を受けた者からも地主に対してその事を主張しうるものと解する。よつてこの点に関する控訴人の主張は採用せず。

次に被控訴人は右(一)及び(三)の土地については被控訴人が前記日時夫々前主よりその地上権を譲受けた後、昭和二八年九月頃その換地予定地に建物建築に着工し、同二九年四月竣工した。而して右建物は本建築で借地法に所謂非堅固建物である。

それ故に右各土地の地上権は借地法第六条の規定により当然更新せられ前契約と同一条件でその存続期間は同三一年九月一五日から更に二十年延長せられた旨主張するにつき検討する。

そこで先ず処理法によつて延長せられた借地権が更に更新せられうるものかどうかの点につき検討するに元来処理法の立法目的並びにその性格は前叙の通りであつて、戦災都市復興等の必要上、臨時の措置として特定の事項につき借地法乃至は民法等に対する例外規定を設けてその特別法として成立したものである。然し乍らかように臨時特別の立法であるからとて、直ちに借地法の適用を受けさせないものとしたのでなく、処理法の規定に定めた事項以外の事項については一般法たる借地法乃至は民法等の適用を受けるものと解せられる。

従つて処理法第一一条(同法第五条第二項の準用される場合を含む)によつて延長せられた存続期間が満了した場合には借地法第四条乃至第六条によつて更新せられることとなり、更新後の存続期間は借地法によつて定められるものと解するを相当とする。

本件について之を観るに被控訴人が本件(一)及び(三)の各土地の換地予定地の上に昭和二九年四月以降その主張の如き非堅固建物を建築所有していることは当事者間に争がない。してみると被控訴人は右土地についての地上権消滅時たる同三一年九月一五日以後も右建物を所有して右各土地の換地予定地の使用を継続しているものと認められるところ、控訴人は之に対し本件訴訟に応訴して被控訴人主張の地上権の存在を争つていることは弁論の全趣旨に照して明らかであるから、右は異議を述べたものと認めるを相当とするけれども、控訴人の立証を以てしては右異議が借地法第四条第一項但書に所謂正当の事由によるものなることは之を首肯し得られないから、控訴人の右異議はその効力を生ずるに由なし。それ故に借地法第六条第五条第一項の規定に則り控訴人は被控訴人に対し従前の契約と同一条件を以て昭和三一年九月一五日から更に存続期間二十年(終期は昭和五一年九月一五日)の借地権を設定したものと看做さるべきであることは前叙説示に照して明らかである。

最後に控訴人は仮定抗弁として、右(一)(二)(三)の土地については未だ地上権が消滅していなとしても、地上権設定契約には譲渡禁止の特約があり、且その旨の登記がなされているから被控訴人は右地上権を取得し得ない旨主張し、被控訴人は右(二)(三)の土地の地上権登記に控訴人主張の譲渡禁止の特約の登記があることは認めるも、その登記は登記法第一一一条等の規定の趣旨から考えて無効であるから地上権の譲渡性を失わしめる効力はない旨争うので検討する。仮りに右地上権の譲渡禁止の特約ある旨の登記を経由していたとしても、元来、地上権は物権であることの当然の性質として譲渡可能性を具有するもので、しかもこれを禁止する特約を登記する途はないと解するを相当とする。(不動産登記法第一一一条第一一二条、民法第二七二条但書参照)而して不動産物権者の普通に有する処分権能が特定の場合に制限されているときは、この旨を登記することを要する。この原則は当事者の意思表示によつて生じた処分の制限については一貫して認められている。従つてかような登記手続の認められていない場合には、処分を制限する特約は当事者間の債権的効力を持つだけで、第三者に対抗する効力を持ち得ないと解するを相当とする。

それ故に本件(一)(二)(三)の土地の地上権につき譲渡禁止の特約が存し或いは該地上権の登記にその旨の特約登記がなされていたとしても、右の事項を以て第三者には対抗し得ないものである。

而して成立に争のない甲第三、四、五号証によれば被控訴人は右(一)(二)(三)の各土地につき何れも昭和二八年七月二九日附を以て夫々前主から本件地上権を譲受けた旨の登記を経由していることが認められるから、控訴人主張の地上権譲渡禁止特約並びにその旨の登記の有無に拘らず、被控訴人の右地上権取得は有効にして勿論控訴人に対しても対抗し得るものと謂うべく、控訴人の該抗弁は採用し難い。

而して前記(一)(二)(三)の各土地に対し原判決添付目録記載(1) (2) (3) の通り各換地予定地が指定せられたことは前記の通りであるから、被控訴人は控訴人に対し右各換地予定地につき、その各従前の土地に対する地上権の内容である使用収益と同じ使用収益をする権利を有するというべきである。

よつて之れが確認を求める被控訴人の本訴請求は正当として之を認容すべきであり、右と同一結論に出た原判決は正当にして本件控訴は理由がないから之を棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第八九条第九五条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

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